保管区分の実態

物流拠点内において、所有権の違いにより保管区分を行っている事例をもとに、現状を
把握したい。一般的に、所有権が異なる在庫を保管している物流拠点は、次のような事例
が考えられる。例えば、販売会社の在庫がメーカーの物流拠点に保管してあるという、企
業自体が異なる場合と、同一企業内において、例えば製造部門と販売部門が、物流拠点に
同居している場合である。

複数企業の同一拠点内保管の事例
まず、販売会社の在庫がメーカーの物流拠点にある場合を仮定して考えたい。物流拠点
から最終消費者への商流の流れは、メーカーから販売会社(以下、販社)最終消費者へと
連なるが、物流面から見ると、メーカー物流拠点から最終消費者となり、販社を通じない
ことになる。この物流拠点では、メーカー在庫だけを保管することを前提として展開して
いるものである。通常、在庫の所有権はメーカーのみとなるため問題は発生しないが、最
終消費者からの返品に問題が発生している。
物流拠点に保管している製品が出荷すると、販社に所有権が移るが、最終消費者から物
流拠点への返品では、所有権が販社在庫のままとなる。さらに、販社は返品在庫から最終
消費者へ販売したいがために、返品在庫から出荷するという状況が発生する

すなわち、物流拠点側で、メーカー在庫と販社在庫に区分され、一つの製品で二つの所
有権を持つことになる。このような場合、物流拠点では、販社側からの要望で、所有権で
エリアを実際に区分して保管するという運用を行っている。この販社側の要望とは、決算
期の会計監査時において、所有権が異なる製品をメーカー在庫と同一拠点内で保管しては、
実地棚卸が困難であるという点にある。ここに、物流拠点で一つの所有権を保管する前提
条件を持っていても、二つの所有権が生まれる原因がある。
この対応策として考えられるのは、販社側で返品在庫を保管するというものである。し
かし、商物分離を念頭に置くと、物流拠点において保管するという現状の運用が正しいと
考えられる。問題は、販社在庫を区分して保管しなければならない点である。
返品とはいえ、製品として物流拠点から出荷するものであるから、メーカー在庫の製品
と品質上、なんら変わりはない。所有権ごとに在庫を区分することは、同一製品でも各々
に保管することとなる。また、作業の面においても、販社在庫から出荷する場合、単独で
はなく、メーカー在庫と同じタイミングで出荷するため、通常、一回で済むピッキング作
業が、二つの場所から行わなければならないことになる。作業が二回に分かれることは、
出荷作業の生産性低下にもつながり、物流コストの増加要因となる。

製造部門の在庫が、販売部門の物流拠点に同居している場合を考察する。製造部門は工
場倉庫を展開しているが、工場倉庫が逼迫し、物流拠点に可能な限り在庫を集約したいと
の意向により、工場倉庫の在庫を販売部門の物流拠点で保管している状況である。もちろ
ん、製造在庫の製品と販売部門の製品は重複しているが、製造部門より、販売部門と区分
して保管するよう求められている。
この事例の問題点は、製造部門の保管エリアから販売部門の保管エリアへの倉庫内移動
の指示があり、この移動コストがかなり大きくなっている点である。販売部門と製造部門
から、物流拠点に対し、別々に出荷指示あり、部門ごとに出荷作業が発生しているのが現
状である。一般的に、工場倉庫と販売部門の物流拠点が、異なる場所に立地していると、
工場倉庫から物流拠点への補充があり、その時点で、同一社内の部門別の所有権の移転が、
製品の移動と同時に発生する。同一拠点内において、部門別に保管することは、製造部門
から販売部門への物流拠点内での補充という、横移動が発生してしまうことに留意しなけ
ればならない。

販売部門の製品が出荷により少なくなり、ある一定の在庫量を下回ったときに、製造部
門から補充指示がかかる。製造部門と販売部門の在庫を区分して保管しなければならない
運用のため、同一拠点内において、実際に製品を販売部門の保管エリアへ移動しなければ
ならないことになる。所有権の移動により、製品も移動するという、価値の生まない無駄
な移動であり、物流拠点内のコストを押し上げる一因となる。

保管区分の弊害(1185)
まず、保管状況や保管場所を把握しているのは、拠点を管理している物流部門だけであ
ることに着目しなければならない。営業部門や仕入部門、生産部門は、自社の販売管理シ
ステムや統合システムにおいて、データ上、物流拠点ごとの在庫を管理しているだけで、
どのような保管状況にあるのかを把握していない。決算期の実地棚卸時において、はじめ
て監査部門や監査法人が知ることになる。
すなわち、在庫管理ができていればどのような保管形態であろうが、他の事業部門は、
物流部門に対し干渉することはない。全社的に見ると、営業からの受注指示により、拠点
から製品を出荷し、品質やリードタイムの遵守、誤出荷がなければ、問題はないというこ
とになる。また、企業特性により、例えば医薬品や医療用具メーカーにみられるような滅
菌期限管理、食品等にみられる賞味期限さえ守ることができれば、どのような保管形態を
行っても、なんら問題はない。
また、拠点へ出荷を指示する側が、拠点内での保管形態や運用方法を把握していないと、
例えば、同一製品でも拠点への入庫日が異なる場合に、先に入庫したものから出荷すると
いう、先入れ先出しが実際行われているかも疑わしいことになる。先入れ先出しを実施し
ている拠点でも、入庫日が異なる一つの製品を、同じ保管間口に保管している拠点も多い。
実際に先入れ先出しが行われているかは、拠点内の運用を管理する、物流部門しか把握で
きていないことに留意する必要がある。
また、決算期の実地棚卸についての企業へのヒアリング結果では、情報システム上で、
販売在庫と製造在庫を管理しており、物流拠点内での保管に関しては、区分する必要はな
いという回答があった。ただし、同じ場所で保管する場合、実地棚卸のときに、事前準備
として、どの所有権の在庫なのか、実際に仕分けしなければならないという、前提条件が
ある。この事例からも実地棚卸の考え方と、その場しのぎの対応という実態に乖離が生じ
ていることが把握できる。
以上のような運用を行っている物流拠点の実態を鑑みると、拠点内で区分することは果
たして有効なのであろうか。また、この問題点は、物流コストに直接反映されるものが多
いことに注意する必要がある。

補足
物流 ABC(Activity Based Costing)とは?
物流ABCとは、活動基準原価計算。コストを発生させる作業単位でその発生原価を把握しようとするもの。
物流量単位だけでなく、活動別で考えることにより、物流業務の適正な評価や、
SCM(Supply Chain Management)最適のためのコスト評価が可能となる。

作業単価から算出するという方法は、本稿では例として出荷行数を取り上げているが、物
流 ABC(Activity Based Costing)をもとに、作業の活動別に単価を把握し、作業費を算出
する方法も考えられる。

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